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連載“改正民法”

−第3回「意思表示」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「第一編」のうち「第五章 法律行為」「第二節 意思表示」(民法93条〜98条の2)について、解説します。

□ 重要ポイント
1.民法93条(心裡留保)
(1)成立要件として、意思表示の相手方の認識対象が「真意」から「真意ではないこと」に変更(新法93条1項但書)。
(2)第三者の保護要件は「善意」で足り無過失を要しない(新法93条2項)。

2.民法95条(錯誤)
(1)成立要件を整理(新法95条1項2項)。すなわち、錯誤には「表示の錯誤:意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と「動機の錯誤:表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」の2種類があること。いずれの錯誤についても、錯誤と意思表示との「主観的因果性:錯誤がなければ表意者が当該意思表示をしなかったこと」と「錯誤の客観的重要性:一般人を基準としてもそのような意思表示をしなかったこと」が必要。「動機の錯誤」については、表意者が法律行為の基礎とした事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたことも要件とする。
(2)効果は、現在、無効であるものが取消しとなり(新法95条1項)、その取消は善意無過失の第三者に対抗できない(新法95条3項)。
(3)錯誤につき重過失がある場合の規律を整理(新法95条3項)。

3.民法96条(詐欺)
 ・表意者の相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合、現行法では、AはBがその事実を知っていたときに限って意思表示を取り消すことができます。新法では、Bが知ることができたときにも取り消すことができるようになります(新法96条2項)。また、詐欺取消しの効果を受ける第三者の保護要件は「善意」だけでは足らず、無過失も要することになります(新法96条3項)。

4.民法97条(意思表示の効力発生時期等)
 ・相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす規定を新設(新法97条2項)。また、意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は、行為能力を喪失したときであっても、その効力を妨げられないという現行法に、表意者の意思能力の喪失を付加し、行為能力の喪失を行為能力の制限と改正(新法97条3項)。

□ 解 説
 ・上記「1」:現在、心裡留保が認められるケースは代理権濫用における類推適用の場面を除いてはなく、これについては107条が新設されます。また、上記(1)は現行解釈上も同様であり、上記(2)についても、民法94条2項を類推するというのが規範として定立された判例です。改正の影響はありません。

 ・上記「2」:新法は従来の判例を整理したものです。また、実務では動機の錯誤が主張されることがありますが、判決で認められるケースは僅かであり、改正の影響はほとんどありません。

 ・上記「3」:本改正は、実務上、重要です。特に、リース契約や不動産購入代金を融資した金融機関との紛争の場面においては、適用場面が拡大することになります。なお、本改正に伴い、消費者契約法、特定商取引に関する法律、割賦販売法の「善意の第三者」も「善意かつ過失がない第三者」に改正されます。

 ・上記「4」:3項の改正の影響はほとんどないものの、2項の規定の新設は実務上重要です。

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