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連載“改正民法”

−第7回「債権譲渡」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「債権譲渡」について、解説します。

□ 重要ポイント
・債権の譲渡制限特約の効力が見直され、譲渡制限特約付債権の譲渡は、当該特約につき譲受人の悪意・重過失を問わず、有効である(明文化)。
・譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護に関する規定(整備)。
・譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護に関する規定(整備)。
・将来債権の譲渡が可能とする規定その他将来債権についての規定(明文化)。
・債権譲渡の対抗要件(整備)。なお、異議を留めない承諾の廃止に関する規定(削除)。
・債権譲渡における債務者の抗弁に関する規定(整備)。
・債権の譲渡における相殺権の拡大。

□ 解 説
・「債権譲渡」とは、債権者が債務者に対して契約にもとづいて有している債権を、その同一性を変えないで譲受人に移転し、譲受人の債権とすることです。
 そもそも、債権は「債権譲渡自由の原則」により、債権者が自分の債権を他人に譲渡ことは自由です(現行民法466条第1項、改正民法466条第1項)。例外として、債権者と債務者との間で、「譲渡制限特約(:債権の譲渡を禁止し、または制限する旨の意思表示)(改正民法466条第2項)」を結ぶことで、これを制限することができます。
 近時、債権譲渡(譲渡担保)による資金調達事例が、中小企業の資金調達手法として活用されることが期待されていますが、この譲渡制限特約が支障になっています。また、実務上、将来発生する債権の譲渡が行われているものの明文がありませんでした。そこで、改正民法では、債権譲渡による資金調達の拡充を図るための規定が設けられました。

1.債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない(改正民法第466条第1項)。
→ 旧民法466条第1項と同文であり、債権譲渡自由の原則と一身専属権などの性質上譲渡ができない例外についての規定です。

2.当事者が「譲渡制限の意思表示(:債権の譲渡を禁止し又は制限する旨の意思表示)」をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられない(改正民法第466条第2項)。
→ 譲渡制限特約付きの債権譲渡も有効とした規定です。

3.前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる(改正民法第466条第3項)。
→ 悪意又は重過失がある譲受人と債務者の関係を規律したものです。債務者の利益を保護するために、@債務の履行拒絶と、A譲渡人に対する弁済その他債務消滅行為を対抗できることとしました。したがって、譲渡制限の意思表示に違反しても債権は移転することになりますから債権者はあくまで譲受人であり、譲受人が悪意・重過失があっても債権者は譲受人ということになります。

4.前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない(改正民法第466条第4項)。
→ もとより、債務者が譲渡人・譲受人の双方から履行請求を拒否できることは不当です。そこで、譲受人は債務者に対して、譲渡人への履行を相当期間を定めて催告し、その期間内に履行がない場合には、改めて譲受人が債務者に対して直接、譲受人自身に対する履行を請求することができると規定されました。

5.将来債権の譲渡を可能とする規定の新設
→ 将来債権の譲渡は有効ですが、旧民法では規定がありません。そこで、改正民法では、債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない旨の規定を新設し、将来債権の譲渡が可能であることを明文化しました(改正民法第466条の6第1項)。

6.将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
→ 改正民法では、将来債権が譲渡された場合、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は発生した債権を当然に取得することとされました(改正民法第466条の6第2項)。

7.将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
→ 改正民法では、対抗要件を具備(:譲渡人が債権譲渡の通知を行い、または、債務者が債権譲渡につき承諾をした時)(改正民法467条)するまでに、譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者を悪意とみなし、これらの者に対して、譲渡制限の意思表示を対抗することができる旨を規定しました(改正第民法466条の6第第3項、466条第3項)。なお、対抗要件具備時までに、将来債権につき譲渡制限の意思表示がなされなかったときは、譲受人その他の第三者は善意となり、これらの者に対して譲渡制限の意思表示を対抗することはできません。

8.債権譲渡の対抗要件
→ 旧民法では、債務者が債権譲渡につき異議を留めずに承諾した場合、債務者は債権の譲渡人に対して有する弁済その他の抗弁を対抗することができませんが(旧民法第468条第1項前段)、改正民法では、債権譲渡の対抗要件につき、債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、または、債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない旨を規定しました(改正民法第467条)。債務者が単に承諾しただけで、譲渡人に対して有する弁済その他の抗弁を一切対抗することができないこととするのはあまりにも酷であることから、異議を留めずに承諾した場合に関する規定を廃止したものです。

9.債権譲渡における債務者の抗弁
→ 改正民法では、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法第468条第1項)。債務者の異議を留めない承諾に関する規定を削除したことにより、債務者は例外なく対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができます。また、債権の譲渡の際に、譲渡制限の意思表示がされたことにつき、悪意または重過失がある譲受人その他の第三者が、債務の履行をしない債務者に履行の催告をしたときには、債務者は催告から相当の期間が経過した時(債務者が履行拒絶権を失った時)までに、譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法第466条第4項、468条第2項)。さらに、譲渡人が破産し、譲受人は、債務者に債権の全額に相当する金銭を供託するよう請求したときは(改正民法第466条の3)、債務者は譲受人から供託の請求を受けた時までに、譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法第466条の3、468条第2項)。

10.債権の譲渡における相殺権の拡大
→ 改正民法は、債務者は対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法第469条第1項)。
 また、債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権(将来債権)であっても、その債権が、@対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権、A前述@の他、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法第469条第2項1号・2号)。
 @は、対抗要件具備時に債権の発生原因が生じていれば、相殺の期待も既に生じてことを考慮して、相殺を可能としたものです。
 Aは、将来債権の譲渡がされ、対抗要件具備後にその発生原因となる契約が実際に締結され、さらにその後に債務者がその契約に基づいて取得した債権であり、同一の契約から生じた債権債務については、特に相殺の期待が強いことを踏まえ、相殺を可能としたものです。
 さらに、譲渡制限の意思表示付の債権を譲渡した場合、「対抗要件具備時」を「催告から相当期間が経過した時」や「債務者が供託の請求を受けたとき」と読み替える旨を規定しています(改正民法第469条第3項)。


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