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連載“改正民法”

−第9回「危険負担」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「危険負担」について、解説します。

□ 重要ポイント
・危険負担に関する民法第534条及び第535条を削除。
・当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる(改正民法第536条第1項)。
・債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない(改正民法第536条第2項)。
・売主が買主に目的物を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責に帰することができない事情によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない(改正民法第567条第1項前段)。

□ 解 説
・危険負担とは、契約上の債務について片方の債務が両当事者の帰責事由なく履行不能となったとき、他方の債務は履行の必要があるか(債権者主義)、それとも消滅させるか(債務者主義)、という処理の仕方に関するルールです。
 危険負担は、契約履行前の段階で債務が履行不能となった場合の処理です。履行完了後、その債務の履行が不完全であった場合には、改正民法下では、「解除」もしくは「契約不適合責任」によって処理されます。

1.旧民法534条は、特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合、その物が債務者の責に帰することができない事由によって滅失又は損傷した場合、その滅失又は損傷は債権者の負担に帰するとされていました。しかし、双務契約の対価関係から公平性を欠くことが多く、解釈上制限がなされていました。そこで、民法534条及びその特則ともいえる同法535条が削除されました。
 ただし、履行不能による契約解除をする場合、債務者には帰責事由が不要ですから、債権者が履行義務を免れるためには契約解除が必要となります。すなわち、現行法では、危険負担によって債務が当然に消滅するわけではなく、債権者が自身の債務を免れるには契約解除が必要となります。

2.改正民法では、不能となった債務の債務者が履行不能となったリスクを負担することになります(債務者主義)。また、当事者双方に帰責事由がない場合は、債権者は反対給付の履行を拒絶することが可能となります。これは、民法第541条で当事者の帰責事由を問わず解除できることになったため、それと制度の整合性をとったものです。

3.旧民法下においては、「危険の移転時期」についての規定はありませんでした。改正民法においては、売買の目的物の滅失等に関する危険の移転について明文化されました(民法567条)。すなわち、「引渡し」の時をもって危険が移転することが明記されました。これまでの実務上の慣行にしたがったものです。


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