TAX ライブラリー(2013.12)
2014年度 税制改正大綱決定
−脱デフレに向けた企業の活性化に重点!−
≪本年度の税制改正大綱についての総評≫
□ この度、2014年度税制改正大綱が発表されました(2013年12月12日)。
脱デフレに向けた企業の活性化に重点を置いた施策が見受けられるものの、注目すべき法人実効税率の引き下げについては不明確なままです。
また、家計の負担が増える施策が目立ち、また、生活必需品に関する消費税の軽減税率についても、その内容や実施時期は発表されていません。
□ 主な改正ポイントは、以下のとおりです。
<個 人>
1.個人再生における資産評定損の必要経費算入
事業を営む個人がその有する債務につき、債務処理に関する計画で一般に公表された債務処理を行うための手続きに関する準則に基づきされていることその他の要件を満たすものに基づき免除を受けた場合に、減価償却資産等の評定損について必要経費算入が認められました。
2. 個人破産、再生等の場合の債務免除益の非課税措置
個人がその有する債務につき、破産法の規定による免責許可の決定、再生計画認可の決定その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる事由により免除を受けた場合は、当該免除による受ける経済的利益(債務免除益)は、所得に算入されないこととなりました。
3.軽減税率 −「消費税10%段階時に導入する」とされているものの、明確な実施時期は公表なし!
生活必需品に関する軽減税率は「消費税率10%時に導入」としたが、実施年月は示されなかった。「10%引き上げ時」とも「引き上げた後に」とも解せる内容であり、導入の判断は2015年度の税制改正まで先送り。
4.自動車取得税 −消費税率8%段階で軽減、10%段階で廃止!
2014年4月に消費税率が5%から8%に上がるため、普通車や軽自動車を買う際に支払う取得税はそれぞれ5%から3%、3%から2%に下がるものの、消費増税の影響が上回るため、税負担は増すことになる。
(1)軽自動車の所有者が納める軽自動車税(年1回)は、2015年度以降に新車を買う際に1万800円(現在の1.5倍)に引き上げ。なお、現在、軽自動車を持っている人や2014年度までに買う人は、2015年度以降も、従来の税額を適用。
(2)エコカー(ハイブリット車など)は、エコカー減税によってすでに取得税が非課税になっている車種が多いものの、2014年4月に取得税が3%に下がることの恩恵はなく、消費増税分が単順に上乗せされることになる。
(3)環境性能の低い普通車は、取得税の引き下げにより恩恵を受けるかのように見えるが、消費税10%段階時に燃費に応じて課税する新たな制度の導入が検討されている。
5.NISA(少額投資非課税制度) −非課税口座をおく金融機関の変更が可能!
2014年1月に始まるNISAは個人投資家が非課税口座を開く金融機関を2015年から、毎年、選択可能になる。
現行は4年間、同じ金融機関で投資しなければならず、非課税枠では他の金融機関の商品を買うことはできない。本改正により、非課税で運用できる商品の選択肢が広がる。
我が国の家計の金融資産は約1,600兆円(2013年6月末時点)あり、その内、現金・預金が半分を占める。本制度により、預貯金から投資に誘導する起爆剤として、2020年までに投資総額25兆円を目指すもの。制度の存続期間は10年間。
6.確定拠出年金 −企業型確定拠出年金の拠出限度額を引き上げ!
企業型の確定拠出年金に関して、非課税となる毎月の掛け金の上限を2014年10月に約8%に引き上げる。2009年度以来、約5年ぶりの改定。なお、企業年金を他に持たない場合は上限5万5,000円、他の企業年金と組み合わせた場合は上限2万7,500円になる。
7.給与所得控除縮小 −年収1,200万円超の会社員は2016年、1,000万円超は2017年から控除縮小!
給与所得控除を縮小すると課税所得が増えるため、所得税は同年分、住民税は翌年度分から税額が増えることになる。現行の給与所得控除の上限は年収1,500万円超で245万円。これを2016年に年収1,200万円超で230万円、2017年には年収1,000万円超で220万円に引き下げられる。
8.住宅ローン減税 −住宅ローン減税拡充!
現行は一般住宅やマンションを購入した場合、最大控除額は年間20万円であるが、消費税の引き上げ前の駆け込み需要や引き上げ後の反動減を抑制するため、2014年4月から最大40万円(10年間で最大400万円)に引き上げられる。対象は2017年12月末までに入居した場合。
なお、本制度の見直しは2013年度の税制改正大綱に盛り込まれていたもの。耐震性や省エネ性能などが高く一般住宅より寿命が長い長期優良住宅の場合は、一般住宅より最大控除額が10万円多い。また、支払っている所得税が控除額に達しない場合に住民税から一部を控除できる額も増やし、現行の約4割増の最大13万6,500円を差し引けるようにする。さらに、2014年4月から所得税と住民税を合わせても、減税の恩恵を受け難い中低所得層には最大30万円の現金給付制度を開始する予定。
<企 業>
1.復興特別法人税 −1年前倒しして、2014年3月末で廃止!
2.法人実効税率 −「引き続き検討を進める」として、引き下げ幅、及び、実施時期不明!
復興特別法人税の1年前倒し廃止により、現在38.01%の日本の法人実効税率は2014年度から35.64%に下がる。
3.大企業の交際費 −交際費の50%まで非課税!
企業の交際費課税では、資本金1億円超の大企業を対象に、飲食費の50%までを税法上の費用(損金)として認め、法人税負担を軽減。上限の設定はないものの、損金算入の割合を半分にすることで接待費の拡大を防止するねらい。また、役員や従業員が飲食する社内接待は対象外。
なお、資本金1億円以下の中小企業は、A:800万円までの交際費の全額損金算入、又は、B:飲食費の50%損金算入 のどちらか有利な方を選択可能。
2014年度から2年間の時限的な措置。
4.消費税の簡易課税見直し −中小の金融保険・不動産業の「みなし仕入れ率」引き下げ!
中小企業や商店の消費税納税に伴う事務負担を軽くする「簡易課税制度」は2015年度から見直し。金融・保険業と不動産業でみなし仕入れ率を引き下げる。これは、消費者が払った消費税が中小事業者の手元に残ってしまう所謂「益税」を縮小する狙い。増収額は約200億円を見込む。
事業者が納める消費税額を計算する際は、「売り上げにかかる消費税額」から「仕入れにかかった消費税額」を差し引いて算出するが、中小・零細企業の仕入れ額を正確に把握するのは困難な場合が多い。そこで、課税売上高5千万円以下の中小企業には、売り上げにかかる消費税額に一定の比率(「みなし仕入れ率」)を掛けた金額を仕入れにかかった消費税額とみなす簡単な計算方式を認めている。
財務省の調査では保険代理店など金融・保険業と不動産業で実際の仕入れ率がみなし仕入れ率をかなり下回ることが判明したため、2015年度以降はみなし仕入れ率を金融・保険業で60%から50%、不動産業で50%から40%にそれぞれ引き下げる。
この2業種で簡易課税制度を利用していた事業者は消費税の負担が増える可能性がある。
5.設備投資促進 −生産性を上げる設備導入に税額控除!
企業が新たに機械設備を購入した場合、投資額の最大10%が法人税から控除される。中小企業の控除率は資本金1億円以下で7%、資本金3,000万円以下で10%となっている。大企業の場合は、将来の生産性が1%以上あがる機械や工具、または投資利益率が15%以上の生産ラインを導入した場合、投資額の5%が控除可能。これは景気回復のための民間設備投資拡大がねらい。産業競争力強化法が施行される2014年1月以降の投資が対象。
なお、控除の代わりに「即時償却」の選択も可能。通常5年以上かかる投資額の減価償却を1年で終わらせ、投資した年の法人税額を減らし、将来に繰り延べる。また、対象となる設備はハードウェア(サーバー機器)、ソフトウエアなど、幅広いものとなっている。さらに、研究開発費を増額した企業の法人税控除も拡大−従来の控除率は、直前3年の平均を上回った試験研究費の5%であったものが30%に高められる。
6.賃上げ促進 −「給与総額の増加率」など3条件充足で法人税を軽減!
現行制度では、給与総額を2012年度比で5%以上増やした企業が増額分の10%を法人税から差し引けることになっているが、適用条件が緩和される。すなわち、2013年度から導入した所得拡大促進税制は、@給与総額が2012年度比で5%以上増加、A給与総額が前年度以上、B1人当たり平均給与が前年度以上、の3条件を満たせば、「給与総額の増加分の10%(中小企業は20%)」が控除される。
なお、この適用条件に関する給与総額の増加率の条件は、2013〜2014年度は2012年度比で2%以上、2015年度は3%以上に緩和。また、平均給与も単純比較を止め、退職者や新入社員を対象から除外。
<その他>
1.地方法人税 −地方自治体の間の財政力格差を減少制度の強化!
消費税率が8%に上がると地方自治体間の財政力格差が益々広がることから、2014年度から法人住民税(地方税)税収2.8兆円(過去5年間平均)の内5,800億円を国が吸い上げ、財政事情の厳しい自治体に再配分する。これに伴い、格差の是正につながり難い現行の法人事業税の再配分は、消費税率が10%に上げる2015年度に廃止する。
2.ゴルフ会員権・リゾート会員権 −売却損は所得控除の対象外!
2014年4月からゴルフ会員権やリゾート会員権を売って発生した損失は、所得控除の対象から除外。
3.老朽化マンション 売却・解体 −促進のための優遇策!
1981年以前の旧耐震基準で建設されたマンションを棟ごと売る場合、マンションの所有者の譲渡所得にかかる税率を2,000万円以下の部分については所得税を15%から10%、個人住民税を5%から4%に軽減する。これは2016年12月末までの時限措置。
また、区分所有権の移転など、組合に発生する登録免許税や不動産取得税も2016年3月末まで免除。
4.戦略特区 −国家戦略特区への優遇策!
特区内で事業実施計画に基づいて設備を導入した場合、機械の購入で取得価額の50%の特別償却か15%の税額控除を受けられる。なお、新たな成長分野を切り開くための中核事業(内閣府令で定める先端医療分野など)であれば即時償却も認められる。
また、中核事業のうち、基礎的な研究開発など収益性の低いものに限り、新たに取得した研究機器の固定資産税の課税標準を最初の3年間は価格の2分の1とする。
法人税や固定資産税の軽減は2014年度から2年間の時限措置とする。
5.訪日外国人 −外国人旅行者を対象にした消費税の免税措置拡大!
外国人旅行者が免税店でパスポートを提示し、5千円超〜50万円の消耗品を買った場合、消費税を免除し、訪日客の日本国内での消費を促し経済活性化につなげる狙い。免税対象商品は、従来の家電製品やカメラ、衣服など国外に持ち出して使う前提の商品だけでなく、菓子類や日本酒、化粧品などの消耗品も含まれる。2014年10月より実施。
6.リニア新幹線 −リニア中央新幹線の建設促進!
用地の取得にかかる不動産取得税と登録免許税を非課税とする。